イベントレポ「私のデザイン経営 第4回 ゲスト:ALL YOURS 木村昌史さん・原 康人さん」

※この記事は2021年1月27日に行われたオンライントークイベント「私のデザイン経営 強くて愛されるブランドをつくる人々 No.4」にて放送された内容をもとに編集しています。

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青山:いつもだとゲストはお一人なんですが、今回はお二方ということで豪華ですよ。環境大善のワークウエアを作成したオールユアーズの原さん、木村さんのお二方です。原さんは1月 日に子会社である「HUG株式会社」を設立されまして、代表に就任されました。木村さんは、12月に『ALL YOURS magazine vol.1』を青山ブックセンターから出版されましたが、そろってお話しする機会はかなり稀なこととお伺いしました。

窪之内:今日を楽しみにしてました。ワークウエアを着ることで、社員みんなすごく満足してますね。

:うれしいです。さっき写真を見せていただきましたが、皆さん良い顔をされてるなって。

窪之内:いろんな意味で、ただ “身につけるもの”というのとは違いますよね。

鎌田:現場がより明るくなったなって思います。自信を感じるというか。洋服って一番外側の中身じゃないですか、人間の。だから自分の気に入ったものを着ていたら自信が湧いてくると思うんですけど、そういう感じを受けます。

窪之内:どうしてワークウエアを作ろうと思ったかというと、出張で移動するとスーツにシワが入ったりして、すごくみすぼらしくなるんですよ。すごく良いスーツを着ていても。でも40℃前後になるタイやベトナムにオールユアーズのセットアップを着て行ったら、汗は乾くしシワにならない。ジャージ素材に近いので、全然問題ないんです。あとお恥ずかしい話、弊社にはちゃんとした更衣室がないので、スタッフの方々にこれを着て来てもらって、帰る時も着替えずに買い物やお子さんのお迎えに行けるといいなというコンセプトで作りました。

木村:洋服の話をする前にうちのロゴについてお話しすると、ちょっと…左寄りになってるんです。一見するとバランスが悪いですが、常にレイアウト上で「U」が真ん中に来るようにデザインされています。なぜかと言うと、「常にあなたが中心にある」というブランドメッセージが込められている。毎日着てしまう服を作っていますよ、と。服って、シーズンによって買い替えたり流行り廃りがあって、来シーズンはまた新しいものを買うというのが習慣化してると思います。でも「毎日着心地が良いものを着たい」って方がたくさんいて、アメリカの古着みたいな、時代の波にもまれても残っているものってありますよね。そういうものを自分たちは本当に好きだなっていうのがあったんで。自分たちが所属していたアパレル産業は、毎回新しいものを投入しながら新鮮さを出して販売するっていうのが常だったんですけど、毎日着られる、同じものをずっと売り続けるブランドをやりたいなと。「毎日、気持ち良く過ごせる服」っていう意味を込めて、オールユアーズという社名とコンセプトを作っていった感じです。

青山:オールユアーズさんは特徴的な売り方もしていて、クラウドファンディングを24カ月間なさってたんですよね?

木村:2015年の12月から、24カ月続くクラウドファンディングをやっていました。連続で行うというのが珍しかったので、非常に注目していただいて、多くの方に知っていただくきっかけになりました。その中で生まれたのが「着たくないのに毎日着てしまう」というジャケットとパンツ。 大善さんで採用していただいたユニフォームのベースになった製品です。うちの製品のコンセプトは着心地が良いってことが大前提にあって、もうひとつが、丸洗いできること。毎日着てほしいから家でケアできるような設計になっています。洗濯して3時間で乾きますよ。それからメンズとレディースで分かれてないので、老若男女関係なく、ぴったりのサイズを合わせていただいて、自分なりに着こなしていただきたいなと。窪之内さん、着ていただいてどんな感じですか?

窪之内:楽だけどピシッとしてる。僕はこれを着て銀行さんにも行きますから。

木村:窪之内さんに初めてお会いした時、しっかりしたスーツを着てらっしゃったんで、お好きな方なんだなって思ったんですよ。そういう方に選んでいただいたのはすごくうれしいなって。

窪之内:お二人が(服作りの)王道中の王道を本当に理解してらっしゃるので、それを再構築して新たな洋服を生み出してるんだなって感じがするんですよ。だから着やすいし、機能性も抜群。こんな再発明があるんだなって思ってます。

木村:うれしいです。なぜ窪之内さんに着心地をお話しいただいたかというと、これを一番大事にしてるんですよ。僕が自分で「着心地が良い」って言うことはできますけど、どんな風に感じてどんな所で着ているかって、お客さんしかわからない。なので実際に言っていただいて、いろんな方に知っていただきたいなと。

青山:では、原さんからはHUG株式会社についてお話しいただけますか?

:コロナの感染が広がってからは今まで気にしなくてもよかったことを気にしないといけない環境になりましたよね。取引先から「うちの商品を抗ウイルス化できないか」といった商談をたくさん受けるようになり、我々が持っている独自の抗菌活性技術とか、オールユアーズを作る以外の形で世の中に安心を届けられないかなと考えて作ったのが、この「HUG株式会社」です。基本的にはワンイシューの会社で、布製品への抗菌・抗ウイルス加工サービスです。皆さんの身近な所には、必ず布製品があるはずなんです。当たり前にありすぎて実は気づいてないことがたくさんあって、でもそういうことに気遣っていくことが、優しさになってくると思いまして。そこで、身近にありすぎて意識しなかったものを我々が一度お預かりして加工を施し、お戻しさせていただく。効果は 回洗濯してももつので、定期的にお預かりすることで効果を恒久的に維持することができる。そういう会社を先週、設立しました。

青山:大変なご時世の中、マスクが品薄だった時にマスクの販売と同時に作り方もシェアしていて驚きました。これはどういう経緯があったんですか?

:ちょうど1年前の花粉症の時期で、僕もそうですが社内の花粉症の人がすごく困っていたんです。であれば作ってしまおうということで、実はそれだけだったんですよ。それを木村がSNSに上げたところ、すごく拡散されて要望が相次いだので、商品化しようって流れですね。

窪之内:すごい反響でしたよね。今の時代にすごくそっているというか、知財の部分もありつつ、作り方をシェアするっていう立て付けっていうのかな。

:買うだけが選択肢じゃないっていうのは常日頃思っているので、さっきのHUGの事業もああいうアイデアでできるんですけど。布製品は身近にあるので、針と糸さえあればマスクなんて誰でも作れます。ただ作り方がわからないだけなんで、であれば公表するべきだなって。

窪之内:私が環境大善に来てから、まず特許戦略や商標戦略などの知財戦略をやっていかないと簡単に権利を取られてしまうと考えたんです。

:商標に関して、僕自身はあまり権利を守ると言う意識はなくて。そこに愛情をそそいでいる、責任を持っているという意思表示でしかないというか。権利を取ることで、私たちは長く責任を持ってこの製品と関わっていきますという、ある意味自分に対するプレッシャーでもある。だから“取った取られた”という話ではなく、自分の子どもにつけた名前みたいな感じなんです。だから戦略というより、愛情と言った方がしっくりくるというか。

窪之内:じゃあいよいよ、環境大善のワークウエアの話を鎌田さんから聞きましょうか。

鎌田:はい(笑)。ワークウエアを大善さん用に作ろうとなって、オールユアーズさんから、今着ているウエアの原型のようなものを見せていただいたんですよ。いくつかご説明を受けた時に、合理性から作られた美しさみたいなものを感じて、あと特殊な素材を使っていることから、「原さんという人は素材を作ることがデザインだと思っている」って思ったんですよ。なので、細かいディティールをいじるとか、ロゴをただポンと入れると台無しになっちゃうなと思って、すごく難しかったです。ロゴタイプを入れるというアプローチは似合わないと思ったんで大善君を入れようと思ったんですけど、なかなか完成された制服にフィットしないなと思って、大善君専用のポケットを作ってもらったんですよね。

:ラフデザインにミリ単位で書いてあるんですけど、まず無理なんですよ。ワッペンの縫い付けって針で1個ずつ刺繍みたいにやっていくんですけど、針の太さが1ミリ以上あるわけです、それに対して ミリ単位の表現をするのは不可能だったんです。これはとんでもない宿題が来たなって久しぶりに思いましたね(笑)。それを説明して、ワッペンからプリントでということになったんですけど、我々の製品は撥水加工がかかっていて、プリントが非常にのりづらいんですよね。プリント屋さんとすごく相談をしながら頑張って何回も試して、かつ細かい指示を守りながらやらないといけないので(笑)、すごく苦労しましたね。鎌田さんはいつも「諦めたら負けだ」って言うんですよ。

窪之内:そうそう、限界を超えろって(笑)。

:僕がさっき言った商標の話と近いかなと思っていて。ここにすごく愛情があって、鎌田さんが作ったデザインに窪之内さんの愛情が乗っかってこの形になったんだろうなっていう。

青山:では、オールユアーズの今後についてはどのように考えていますか?

木村:去年から「スイッチスタンダード」をスローガンにして活動しているんですけど、これは「当たり前をスイッチしていく」みたいな意味で、目線を変えると世の中ってぜんぜん違って見えるよって話だと思っていて。視点を複数持つとネガティブなものもポジティブに見えるし、ピンチはチャンスって言うじゃないですか。そういう状況がありえるなと思っていて、スローガンの下に取り組みをいろいろ考えてるんですね。一番大きいなと思っているのが、アパレルの人たちが“いない”としている人たちがいっぱいいるということです。体が大きい人って、どこで服を買っているか知っていますか?

青山:知らないです。

木村:もうちょっと言うと、車椅子の人、いわゆる手足が不自由な人たちとかね。服を作っている人たちって、そういうことをぜんぜん知らないなって。私たちもそうなんです。だけど「着心地が良い・毎日着たくなる」って考え方でいったら、五体満足な私たちが満足しているだけだと、本当に良い商品ではないんじゃないかという問いがあって。本当に着心地が良くて毎日着たくなる服なら、そういう人たちの方が良さを感じていただけるんじゃないかってことで、線を引かない、良いものを作りたいと思って、いろいろリサーチをしているところです。

青山:今後の展望として、そんな所まで考えてらっしゃるんですね。

木村:いやいや。さっき鎌田さんが言っていたように、服って内面を一番表現する外観でもあると思っていて、国民全員に同じものを着てくださいって絶対無理だと思うんですよ。だったら、自分たちのビジネスをどれくらい広げられるかって時に、自分たちが認知していない人たちがいるってことは、取り込めたらビジネス的にもぜんぜんいいじゃんって。もちろん、社会のために良いことしようみたいな所もあるんですけど、一方ではマーケットを広げるという前提でやれることを考えた時、そこに行くのが一番自然かなと。

窪之内:鎌田さんと仕事をするようになってから一発目に言われたことが、「使われる理念を作りましょう」なんですよ。オールユアーズさん的なワークウエアとか服って、使えるデザインだと思うんだよね。

木村:うちの服は大事にしてほしくないんですよ。汚してほしい、動いてほしいんです。おしゃれ着とは真逆ですね。だから、よりそういう体験をしてもらえる人を増やしていくって意味でも、トライする価値はあると思います。

窪之内:オールユアーズの服は毎日洗って使えるもんね。それが使える素材。使えるデザインだっていう認識があって。手前味噌だけど『きえーる』も1本あったらどこにでも使えるってことがすごく評価されていて、この商品を“きえーるさん”って呼ぶお客さんが何人かいたらしいんですよ。愛着を持って使っていただいている。すごくありがたい話ですよね。

木村:僕も窪之内さんから影響受けてますよ。サーキュラーみたいなことを取り入れてらっしゃるじゃないですか。事業をやる上で売り上げを上げていこうみたいなことも大事なんですけど、じゃあ自分はなんで仕事をしているんだろうって話になった時に、窪之内さんがやろうとしていることをうちでやろうとしたら、どういうことができるかって考えてます。

窪之内:お二人にお会いした時に原さんから「きえーるを繊維にがん着できないですか」って相談を受けたんですよ。でもまだ善玉活性水がどんなものか研究開発をスタートしたばかりで、ちょっと難しいという話をして。でも原さんは衣類が臭わないようにするためにはどうしたらいいかってことを、ずっと考えてらっしゃったと思うんだよね。それでHUGがローンチされて、原さんはここまで頑張ったんだなって。僕らはまた違ったやり方でどんどん研究開発を進めていて、牛の尿ってものを利用しながら善玉活性水をバージョンアップして、地球に還元できればなって考えています。また明日もこれを着て、日々仕事をしていきたいなって感じました。

ゲスト
株式会社オールユアーズ https://allyours.jp/
代表取締役
木村昌史・原 康人
それぞれアパレル業界での経験を経て、2015年に株式会社オールユアーズを立ち上げる。流行を追うのではなく、着心地の良さを一番にした考え方で商品を展開。新商品の開発をクラウドファンディングにて行い、総額5,000万という目標を達成。24カ月連続という企画性も相まって、多くの注目を集めた。
2021年10月現在は白シャツ「ミテミテシャツ」のクラウドファンディングを実施中。
https://camp-fire.jp/projects/view/491030

解説
KD
クリエイティブコンサルタント
アートディレクター
鎌田順也
1976年生まれ。デザインコンサルティングを行うKD主宰。理念作成からロゴマーク及びCI・VIデザイン、ネーミング、商品開発など多岐にわたって活動している。審査員として2025年大阪・関西万博 ロゴマーク、ロンドン D&AD パッケージ部門に招請。ニューヨークONE SHOW 金賞、JAGDA新人賞など、受賞歴多数。

主催
環境大善株式会社
代表取締役社長
窪之内 誠
1976年生まれ。北海道・北見市にある環境大善株式会社の二代目。父の後継として、2019年の2月1日に事業承継を行った。会社の主な事業内容は、牛の尿を微生物で発酵・培養した『善玉活性水』から作る消臭液「きえーる」や、土壌改良用の「液体たい肥 土いきかえる」などの開発から製造、販売までを手がける。

進行
フリーアナウンサー
北海道観光大使
青山千景
18歳から現在まで、ラジオパーソナリティやテレビのグルメ・観光番組のレポーターとして幅広く活動している。2007年度ミスさっぽろ受賞、2017年には北海道認定 北海道観光大使、2020年に札幌観光大使に就任し、MC業のみならず、大学や企業向けマナー研修講師も年間100本ほど務める。


発行 環境大善
アートディレクション・デザイン 鎌田順也
編集・コピーライティング 佐藤のり子