「私のデザイン経営 第1回 ゲスト:木村石鹸工業 木村祥一郎さん」の番組内容をまとめた記事を公開しました
弊社で取り組んでいるブランディングがスタートして2年が経過した2020年7月より始まりましたオンライン番組
「私のデザイン経営 強くて愛されるブランドをつくる人々 」
その第1回放送の番組内容をまとめた記事を公開いたしました。
お迎えしたゲストとの対談を読み物としても多くの方に楽しんでいただければと思います。
また、「過去動画を視聴したい」というお声を多くいただくことから、番組アーカイブを配信することにいたしました。
下記申し込みフォームからお申込みいただきますと後日視聴URLをご案内いたします。
▼番組アーカイブ視聴申し込みURL
https://forms.gle/hLjjRm51cimHrJy8A
動画も合わせてご覧いただくことで番組をさらに深くお楽しみいただけると思います。
2020年7月29日(水)初回ゲストは「木村石鹸 工業 木村祥一郎さん」をお招きいたしました
私のデザイン経営 1
強くて愛されるブランドをつくる人々
木村石鹸工業 木村祥一郎 様
青山:ゲストに木村石鹸工業の木村祥一郎さんをお迎えしています。
木村:よろしくお願いします。僕はインターネット関係のベンチャー企業を立ち上げて経営していたので、家業は木村石鹸なんですけど継ぎたくないとずっと言ってまして。親父も諦めて外部の人に事業承継を二回したんですけどうまくいかず…。ほったらかしにできないと思って、とりあえず経営の把握をするために木村石鹸へ戻ったのが、2013年かな。そしたらものづくりがすごくおもしろくて、今に至ります。
窪之内:僕は父が創業者なので二代目になります。事業承継をしたのは2019年の2月1日ですね。
青山:環境大善は事業承継に加えて、今年の3月に社名やコーポレートアイデンティティを変更していますが、そのきっかけは?
窪之内:まず新しい社名の「大善」の「善」っていうのは、うちの会長が言っている「大きく善いことをする」っていう意味と、善玉菌の「善」なんですよ。でも鎌田さんとリブランディングを始めた時は、まさか社名を変えることになるとは思ってなくて。最初は『きえーる』をリブランディングしようと考えて鎌田さんのところを訪ねたんだけど、話せば話すほど根底からやり直した方がいいという話になって、まずは3年ほど時間を見ましょうと鎌田さんから言われたんだよね。
鎌田:そうですね。やっぱり1年だと結果を出すことが難しいですし、うまくいかなかったりした時に調整する時間もないので、それくらいの期間は見てくださいとお話ししました。社名変更に合わせてシンボルマークも作りまして、これは「善」の字を縁取ったマークなんですね。アイデアスケッチは最終的に100以上はありました(笑)。いつのまにか『善玉菌の大善君』 と呼ばれています。
窪之内:そのあとブラッシュアップしていって、マークが出来上がったのが去年の秋口くらい。次に、ひたすら会社の中身を分析しました。まだ事業承継の途中だったので、そのタイミングで会社の強みや弱みはなんだろうってことをやったわけです。そして社員は今後、この会社がどうなっていくんだろうって不安がってたと思うんです。で、鎌田さんからまず社員手帳を作りましょうとご提案をいただき、その前段として『環境大善の考え』を作りました。”こういうことを考えて一緒に仕事をしていきましょう“という考えを、まず社内に周知する。インナーブランディングをしようと。
木村:社員に手帳を配った時ってどんな反応だったんですか?
鎌田:最初にお配りした日は、シーンとしてましたよね(苦笑)。
青山:鎌田さんにデザインをお願いしているんだって思ってたら、「経営指針? これは何か関係あるの?」って社員の方もびっくりされますよね。
窪之内:環境大善は消臭液の会社っていう考えがあるけど、僕らが持っている循環型のシステムをもっと活かせることがあるんじゃないかと。その考えを整理し、落とし込んで社員手帳を作ったんです。大善らしさってどういうことかが書かれている、ということですね。
鎌田:『環境大善の考え』を渡してから社員手帳『経営指針の書』を渡すまでに1年くらい経ってるので、その頃には社内でもかなり浸透していましたよね。
窪之内:社員たちも「社長こんなこと考えてるんだ」くらいに思ってたものが、「自分たちのやっていることが書かれているんだ」と、それこそ思いが発酵するというか。だんだん思いが熟されていって、より新たな考えに行き着くというように、僕らは考えています。
青山:鎌田さんがデザインしたものでいうと、こちらの領収書もあります。
木村:すごくかわいいですね。
鎌田:こういったものを作ったからといって、すぐに売り上げが上がるわけではないです。じゃあなんで細かなことまでこだわるかというと、デザインっていうのは審美性を元にした計画的行為のことで、美しいものの方が人は欲しがるし、丁寧に使おうと思います。逆に醜いといらないじゃないですか。身近にあるものにこだわってあげることで、社員の”もの“を見る解像度が上がる、要は気が付く人になる。それは最終的に営業態度や接客の口調に表れて、利益還元すると。そういうことを意図して、領収書など顧客の目に触れないものまで細かくデザインしています。実際、会社の雰囲気はすごく明るくなりましたよね。
青山:私も環境大善さんのお仕事をするうえで、どんな会社なのかをなんて説明したらいいのかなと思うことがありました。手帳などのわかりやすい形にまとまったことで、社員さんたちも”こんな会社で働いている“と言葉にできるようになったのは大きいのでは?
窪之内:その通り。デザイン経営と言ってますが、それはパッケージをきらびやかにしたり奇抜なものにして売ることではないと思うんです。僕らの内面から出てくる”大善らしさ“をパッケージに宿す、それを鎌田さんにやってもらうのが目的なんだけど、そこまでの過程が非常に大事だってことを感じています。
そのことは木村社長のブログを見ても感じていて。なぜ第一回のゲストが木村社長かというと、商品をどうやって世に出そうかと悩んでいた時、木村社長のブログでブランディングの話が出ていたからなんですね。
青山:木村社長のようになりたいと、強く思われたと。では、木村石鹸のブランディングについてお聞かせいただけますか。
木村:以前はOEMをメインにしていましたが、自社ブランドの事業を6年前からやっていまして、去年の12月には初めてのヘアケアブランド『12/+=』を立ち上げました。もともとうちの社員が、自分のライフワークとして良いシャンプーを作りたいということで作ったもので、ある日いきなり「すごいもんができました」って言ってきたんですよ。で、僕が最初に使わせてもらったんですけど、寝ぐせがつかないんです。雨の日に髪が広がるように、髪の毛は寝ている時も水分を吸っていて、そこに寝相が相まってこんがらがり、寝ぐせの一番の原因になるそうなんです。ところがこのシャンプーを使っていると、そういったダメージの部分を補い、さらに髪の毛の表面に皮膜を作ってダメージから守るから、寝ぐせがつかなくなる。これはすごいぞと。
窪之内:ホームページにも記事が出ていますよね。
木村:あまりにも感動して(笑)。やっぱりモノを洗うより、身体や顔を洗う方がお客さんとの距離が近いじゃないですか。自分に合うものを見つけた時の粘着力みたいなものも洗剤より強いので、この領域を強くしていきたいなと思っています。洗う行為ってそもそも、すごく良いことじゃないですか。でも今の洗剤って”すごく汚れが取れて気持ち良い“みたいなコミュニケーションしかないんですよ、基本的に。商品のデザインも売り場に置かれて目立つことが中心っていうか。だけど、使われたり家に置かれている場面の方が目にする時間は長いですよね。なので生活にちゃんと溶け込むようにしたいな、邪魔にならないものにしたいなと思って、シンプルなデザインにしています。
窪之内:木村石鹸さんの『SOMALI』を見て、時代の流れはこう来るなと思ってめっちゃ参考にさせていただきました(笑)。
青山:では、それぞれが思うデザイン経営についてはいかがでしょう?
木村:そもそも経営自体がデザインに近いっていうイメージなんですよ。社員やお客さんの期待にどう応えていくか、みたいなことを自分で組み立てていく作業というか。それってほとんどデザインと言える領域じゃないかなって。
青山:そういった経営に対して、社員の方からの反応はありましたか?
木村:例えば、今は釜焚き製法を前面に出していますが、もともとは出していませんでした。職人たちは「そんなことは古いし、効率悪い」みたいな感じであまり見せたくない様子だったんですけど、僕から見るとめっちゃかっこいいなって思ったんです。それに会社の特徴として、釜焚きがすごくわかりやすいなと思って。それでカメラマンを入れて撮ったりしているうちに、職人たちもちょっと変わってくるんですね。工場見学に来てもらって喜んでくれると、サービス精神で泡を吹かせたり(笑)。
青山:はじめは嫌だなと思っていたことも、ブランドになるということをわかってくださったんですね。『きえーる』も牛の尿を使っているということで、似たような状況があったのでは?
窪之内:素晴らしいと言ってくれる人もいれば、なんだそれって言う人もいますね。ものすごく説明しないと良さが伝わらない。そこをきちんと整理してあげる必要があるなと。あと先代が事業を始めた時、妹は学生だったので、けっこういじられたというか。なので、うちのスタッフやそのご家族がそうあってほしくないという気持ちがあって、まずはインナーブランディングをして”環境大善とはこういう会社ですよ“ということをやろうという話になりました。
鎌田:木村社長の的確なご説明の通り、デザイン経営って要は、デザイン的なものの見方や思考を経営に取り入れることなんですよね。先ほどのシャンプーを勝手に開発したみたいな、そういう組織を作ることがまさにデザインだなと。
木村:前提として、どんな社員も社会に貢献したい、成果を上げたいと思っていると思うんですよ。だけどその貢献の仕方は人それぞれ、得意不得意も当然あるし。それを会社の戦略とか枠にはめてしまうのがいいのか、自分たちで考えてやるのがいいのか。貢献したい気持ちがあるなら、任せた方がうまくいくんじゃないかとずっと思っているんです。でも信頼してると言いながら逆のメッセージを発信するルールや制度がいっぱいあって、それが社員を縛ってると思うので、それを全部取り除いて本当に信頼しかないっていう状況まで持っていった方が、相手も信頼に応えようとしてくれるんじゃないかと。
青山:社長ご自身が信頼するところからスタートされたから、会社に貢献しようと思う社員の方が増えたんですね。
木村:だと僕は思っているんですけど(笑)。僕には彼らが能力を発揮しやすい環境を作ることくらいしかできないんですよ。でも信じて任せれば任すほど、応えてくれるなっていう実感はすごくある。
窪之内:任せた結果を受け入れて、そこからさらにフィードバックをする。そうしないと組織って強くなっていかないし、強いブランドにもならない。そういう経営をしているから木村社長の下に集まっているわけで、僕が木村社長にシンパシーを感じるのは、そういうところなんです。
青山:事業承継についても少し触れたいのですが…
木村:企業ってアップデートさせないといけないので、続けていかないといけないものと、新しく変えないといけないものがあるんですね。昔からやっていることって引力が強いというか、すごく変えにくいんだけど、事業承継って変える絶好のタイミングだと思うんです。そこにデザインの要素を入れることで、外部からどんな期待を得ているかを考えるので、変えるための大きな原動力になるんじゃないかな。長く続けているとね、中でうまくやることに長けてくるんで、だんだん外部の視線って忘れちゃうんですよ。一旦視線を変えることって、絶対必要だと思います。
鎌田:デザイン経営とかブランディングはユーザーを中心とした目線なので、事業承継のタイミングで導入するとうまくいく可能性が高いです。企業のトップが変わるということは企業理念の再構築や、“出し手視点”から“受け手視点”に考え方を変えられる絶好の機会ということですから。
窪之内:木村社長がおっしゃったように、少しずつアップデートする。それをデザイナーさんなどにクリエイティブジャンプさせてもらって、僕らだけでは超えられないところを越えさせてもらう。もしくはデザインっていう魔法の一振りを最後にしてもらうことで、自分たちの力を正確に見せてくれるパートナーが、アートディレクターだったりデザイナーさんだと思います。
青山:最後に、この放送をご覧になっている視聴者へ一言ずつお願いします。
木村:僕はデザイン経営について意識するというより、自分たちの会社の価値をもっとわかりやすく、興味を持ってもらえる形で伝えて、かつ期待されるようにしたいと思っています。だからデザインが先か、中身が先かみたいな話になりますけど、それってどっちもあると思ってて。「デザイン経営難しいな」とか、「最初にロジックの組み立てをやらないといけないのかな」ってところからスタートすると大変なので。まず見え方からスタートするといいんじゃないかな。
窪之内:遠回りかもしれないけど、インナーブランディングをして社員や役員に僕らがやっていることを伝えて応援してもらうことが大事だったなって考えています。番組はまだまだ続けていくので、共に学べる場にできればいいなと思っていますので、次回もよろしくお願いします。
ゲスト
木村石鹸工業株式会社
代表取締役社長
木村祥一郎
1972年生まれ。大阪に本社を構える木村石鹸工業株式会社の四代目。二度にわたって事業承継を試みるも難航している木村石鹸の状況を案じて、2013年より常務の職に就き、後に代表取締役社長に就任。主な事業内容は「釜焚き製法」による石鹸の製造。OEMをメインに、自社ブランドも展開している。
主催
環境大善株式会社
代表取締役社長
窪之内誠
1976年生まれ。北海道・北見市にある環境大善株式会社の二代目。父の後継として、2019年の2月1日に事業承継を行った。会社の主な事業内容は、牛の尿を微生物で発酵・培養した『善玉活性水』から作る消臭液「きえーる」や、土壌改良用の「液体たい肥 土いきかえる」などの開発から製造、販売までを手がける。
解説
KD
クリエイティブコンサルタント
アートディレクター
鎌田順也
1976年生まれ。デザインコンサルティングを行うKD主宰。理念作成からロゴマーク及びCI・VIデザイン、ネーミング、商品開発など多岐にわたって活動している。審査員として2025年大阪・関西万博 ロゴマーク、ロンドン D&AD パッケージ部門に招請。ニューヨークONE SHOW 金賞、JAGDA新人賞など、受賞歴多数。
進行
フリーアナウンサー
北海道観光大使
青山千景
18歳から現在まで、ラジオパーソナリティやテレビのグルメ・観光番組のレポーターとして幅広く活動している。2007年度ミスさっぽろ受賞、2017年には北海道認定 北海道観光大使、2020年に札幌観光大使に就任し、MC業のみならず、大学や企業向けマナー研修講師も年間100本ほど務める。
発行 環境大善
アートディレクション・デザイン 鎌田順也
編集・コピーライティング 佐藤のり子