藍藻Synechococcus elongatusの増殖を促進する細菌Rhodococcus sp. AF2108の作用機構を安定同位体・トランスクリプトーム解析で探索

環境大善株式会社と国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学との共同研究の成果が、学術誌「Algal Research」オンライン版に2026年6月19日付で掲載されました。本論文はオープンアクセスとして公開されています。
研究のポイント
研究背景
藍藻(シアノバクテリア)※4は光合成によって大気中のCO2を固定し、有用な物質を生産するプロセスに利用できます。一方で、増殖速度が遅いことが商業的応用の障害となっており、これを克服する手段として、細菌との共培養による増殖促進が注目されています。私たちは前回の研究(2024年)で、畜産廃水から分離した複数の藍藻増殖促進細菌(cyanobacterial growth-promoting bacteria;CGPB)※5のうち、Rhodococcus sp. AF2108が最も強い増殖促進効果を示すことを報告しました。しかし、その効果がどのような仕組みによって生じるのかは分かっていませんでした。これまでの多くの研究は、バイオマスや色素量の増加といった表現型の記述にとどまり、藍藻の炭素・窒素代謝がどのように変化するのかは十分に解明されていませんでした。
そこで本研究では、細胞同士の直接接触の影響を排除し、膜を介して拡散する物質の効果を切り分けられる膜分離型共培養系(別府フラスコ)を用い、安定同位体比解析とRNAシーケンス(RNA-seq)を統合して、Synechococcus elongatus PCC 7942の生理的・転写レベルの応答を調べました。
研究成果
孔径0.22 μmの膜で細胞を完全に分離し、ガスと物質のみが両室間を行き来できる別府フラスコを用いて、7日間共培養しました。供試した4株(Rhodococcus sp. AF2108、Ancylobacter sp. GA1226、Xanthobacter sp. AF2111、Shewanella sp. OR151)はいずれもS. elongatus PCC 7942の増殖を促進し、なかでもAF2108の効果が最も強く、クロロフィルa濃度を約11.5倍、細胞数を約6倍に増加させました。さらに、細胞を分離した共培養のほうが分離せずに共培養するよりも高いバイオマスが得られ、直接接触がなくても増殖促進が成立することが示されました。

Fig. 1 AF2108との共培養によるS. elongatus PCC 7942の増殖。培養7日目の(A)クロロフィルa濃度と(B)細胞数を単独培養・混合共培養・分離共培養で比較した。エラーバーは標準偏差(n = 3)、異なる文字は有意差(Tukey-Kramer法、p < 0.05)を示します。
炭素・窒素の安定同位体比解析では、共培養によりS. elongatus PCC 7942のδ13Cとδ15Nがともに上昇しました(AF2108との共培養でδ13Cは−23.3→−13.0‰、δ15Nは−16.4→−7.9‰)。これは、藍藻が速い増殖にともなって炭素・窒素への要求を高め、重炭酸イオンの利用やCO2の再固定、窒素の代謝回転を活発化させたことを示唆しています。

Fig. 2 AF2108との共培養によるS. elongatus PCC 7942の炭素・窒素安定同位体比の変化。エラーバーは標準偏差(n = 3)を示します。
トランスクリプトーム解析では、単独培養と共培養とで明確に異なる発現パターンが認められました。カルビン・ベンソン回路(RuBisCO等)、炭酸脱水酵素、シアナーゼ、GS-GOGAT回路、アミノ酸・クロロフィル生合成、硫酸同化に関わる遺伝子群が上昇し、炭素固定・窒素同化・色素合成の活発化が示唆されました。一方、酸化的ペントースリン酸経路や細胞包膜に関わる遺伝子群は低下していました。また、鉄関連のABCトランスポーターでは基質結合タンパク質(AfuA)の発現低下と膜透過成分(AfuB)の発現上昇という差次的な変化が見られ、外部からの鉄の利用しやすさが変化した可能性が示されました。

Fig. 3 共培養に応答して変動した遺伝子をS. elongatus PCC 7942の中心炭素代謝経路上に示した図。配色はRNA-seqに基づくlog2FCを表します(緑:発現上昇、赤:発現低下)。
これらの結果を総合すると、S. elongatus PCC 7942の増殖促進は、AF2108からの単なる栄養の供給だけでは説明が難しく、AF2108との代謝的な相互作用が関与している可能性が示されました。安定同位体解析が示す炭素・窒素の取り込みと再利用の活発化と、トランスクリプトーム解析が示す炭素固定・窒素同化・アミノ酸およびクロロフィル生合成に関わる遺伝子群の発現上昇は互いに整合しており、藍藻が高い増殖需要に応じて代謝を組み替えていた様子がうかがえます。さらにこの増殖促進は、AF2108からの一方的な働きかけではなく、S. elongatusが酸素や光合成由来の有機物、窒素化合物をAF2108に供給し、AF2108がCO2や物質を返すという、双方向の代謝的なやり取りによって支えられていると考えられます。これは、両者が互いに支え合う共生関係の存在を示唆する結果です。

Fig. 4 AF2108と S. elongatus PCC 7942の共培養における代謝物交換と増殖促進の模式図。
今後の展望
本研究は、AF2108が放出する物質を介して藍藻の増殖を促進するという作用機構のモデルを提示しました。ただし、関与が考えられるシデロフォア様物質、IAA(インドール-3-酢酸)、ビタミン類、アミノ酸などの代謝物そのものは本研究では直接測定しておらず、これらの関与は現時点では仮説の段階にあります。今後は、メタボロミクスやガス交換・溶存酸素のモニタリングなどを通じて、増殖促進に関与する物質とプロセスの特定を進める予定です。藍藻を用いた有用物質生産プロセスの効率化や、微生物コンソーシア(共生系)設計への応用が期待されます。
論文表題
Metabolite-mediated enhancement of Synechococcus elongatus PCC 7942 growth by Rhodococcus sp. AF2108: Insights from stable isotope and transcriptomic analyses
著者
Pei Yu Tan1
Yuta Kato2
Akihiro Hachikubo3
Masaaki Konishi3
所属
1 Graduate School of Engineering, Kitami Institute of Technology
2 Kankyo Daizen Co., Ltd.
3 Faculty of Engineering, Kitami Institute of Technology
雑誌名
Algal Research
DOI
10.1016/j.algal.2026.104803
用語解説
※1 膜分離型共培養系(別府フラスコ)
別府輝彦博士により開発された二室型の培養容器で、両室を微多孔膜で仕切ります。細胞は膜を通過できませんが、ガスや低分子量の物質は拡散して行き来できます。これにより、細胞同士の直接接触による影響と、拡散する物質を介した影響とを切り分けて評価できます。
※2 安定同位体比解析(δ13C・δ15N)
炭素や窒素には、わずかに重さの異なる安定同位体が存在します。生物が物質を取り込み・合成する過程で、これらの同位体の比率が変化します。その比率(δ値)を測定することで、どのような炭素源・窒素源を、どのように利用しているかを推定できます。
※3 トランスクリプトーム解析(RNA-seq)
細胞内で働いている遺伝子(RNA)を網羅的に読み取り、どの遺伝子の発現が増減したかを調べる手法です。生物が置かれた条件にどう応答しているかを、代謝経路のレベルで把握できます。
※4 藍藻(シアノバクテリア)
光合成を行う微生物で、水中や土壌に生息します。光合成により酸素を生成し、CO₂を固定して有用な物質を生産する能力を持ちます。
※5 CGPB(cyanobacterial growth-promoting bacteria)
藍藻の増殖を促進する細菌の総称です。藍藻と相互作用し、栄養供給や環境改善などを通じてその増殖を助けます。
本リリースに関するお問い合わせ
環境大善株式会社
土、水、空気研究所
担当:加藤
電話:0157-67-6788
FAX:0157-67-6618
E-mail:otoiawase@kankyo-daizen.jp