※この記事は2021年5月19日に行われたオンライントークイベント「私のデザイン経営 強くて愛されるブランドをつくる人々 No.6」にて放送された内容をもとに編集しています。

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青山:最終回のゲストは、見えない発酵菌たちの働きをデザインを通して見えるようにする、そんな活動を行っている発酵デザイナー小倉ヒラクさんをお迎えしました。

小倉:僕は発酵デザイナーという肩書で活動しておりまして、もともとデザイナーだった素地もあって、わりとデザインプロジェクト的なものと発酵醸造の研究や調査を合体させたようなプロジェクトをやってます。スキンケア会社のインハウスのデザイナーだった時に後輩だった子が味噌屋の娘で、僕が独立した時に「うちのデザインやってくださいよ」ってところから始まって、最初はパッケージデザインとかいわゆるブランディングをやってたんですけど、途中から暴走して「アニメ作ろうか」って話になりまして。手弁当のプロジェクトとして作った『てまえみそのうた』がスマッシュヒットをしてですね、その前後くらいから発酵にめちゃめちゃハマっていきます。もともと身体が弱かったので発酵でいろいろ救われた部分があって、不思議だなって感じでやっていくうちにどんどんハマっていって、気づいたら発酵醸造関係のデザインばっかりやる状況になってました。
市民講座なんかで、微生物の世界入門みたいなこともやっていて、DNAの模型を組み立てたり、顕微鏡の使い方を教えたり。フィールドワークもよくやってたんですけど、めちゃめちゃ調べるってことをやっていろんなものを収集しているうちに、世界各地の発酵食品とか微生物にまつわるいろんなプロダクトのコレクションができていって、それで展覧会とかもやりましたね。それが発展していって、下北沢の発酵デパートメントってお店になりました。

青山:発酵デパートメントは、飲食を提供しようと思っていたけど物販にシフトチェンジしたと聞きました。

小倉:発酵デパートメントの発端なんですけど、まずヒカリエでの展覧会がスマッシュヒットをして、そこのミュージアムショップがめちゃめちゃ売れたんですよ。そしたら小田急の沿線開発をしている方から「これをお店にしない?」っていう話をいただいて、ご冗談をという気持ちもありましたが、ちゃんと継続的に文化を作る場所を作らなきゃいけない、育てる場を作らなきゃいけないと思って、お店をやることに決めました。最初は5坪くらいのちっちゃな店舗だったんですよ。だけど後から「メインテナントでいいかな」と言われて、ノリで「いいですよ」って言ったら、7倍くらい広かったんです。それで食料品店だけだとちっちゃいかもと思って、飲食機能をつけようという話になりました。当然だけど飲食店は粗利がいい。なので、スペース的には飲食店を大きめに取って小売りは付随するものとして、飲食で基本的に集金構造を作ろうとしたんですけど、オープンして3日目で緊急事態宣言が出るっていう。

窪之内:ちょうど去年の4月くらい?

小倉:参りましたね。飲食店は2ヶ月くらいお休みしたんですけど、小売りは閉めないでやろうと思いました。全部お休みするという手もあったんですけど、百貨店とかセレクトショップみたいなところが閉まってるのを知ってるし、作り手は卸先がなくなっちゃうはずなんですよ。だから、僕らのお店はちっちゃいけど、僕らみたいなところでも明かりを消さないってすごく大事なことなんじゃないかと思って、小売りはやりますと。突貫工事でECも作るぞって、全部自分でシステム組んでサイトも作りました。そしたら小売りとECがいきなり売れ始めて、サブだと思ってた小売りがあれよあれよという間にバカにできない数字になっていて、この坪数でよく売るねっていう状態になっていったんです。
悩ましかったのが秋過ぎくらいで、一瞬、飲食も時短なしでできてたけどまた緊急事態になっちゃうって時に、もともと考えていた飲食を中心とした立て付けはもう無理じゃないかと思って、小売り中心に切り替えようとしたのが去年の10月とか11月とか。
裏側の話になっちゃいますけど、飲食と小売りってビジネスモデルがぜんぜん違ってて、飲食事業は一番かかるのが人件費なんですよね。やった分だけ人件費がかかる、粗利は結構良いみたいな。センス商売だし、人でドライブしていくっていう。小売りはぜんぜん違って、人件費と売り上げがぜんぜん比例しない。在庫を持って売り場を作ると人が動かなくても勝手に売れていくので、非常に仕組みドリブンで。しかも飲食の場合だと人件費で後ろにお金が出ていくんですけど、小売りって最初に在庫を仕入れるんで、前倒しでお金がかかるんです。何にお金がかかるかっていうのも違うし、お金が出ていく重心もぜんぜん違う。で、飲食と小売りをあるタイミングで切り替えようとするじゃないですか。何が起こると思います?

青山:お金がなくなる!

小倉:当たり!前倒しと後ろ倒しが被るので、めちゃめちゃキャッシュが必要になるんです。やべー大変! みたいな感じに死ぬ思いをして、窪之内さんをはじめ醸造メーカーの皆さんに助けてもらってなんとか乗り越えて。結局、最初の事業モデルは7対3くらいで飲食メインだったところ、今は8対2で小売りです。

青山:シフトチェンジをガツっとしたところが、すごいなと思います。経営に対して、どんな心意気で代表を務めてますか?

小倉:僕はイノベーションとかソーシャルなんちゃらとか、あんまり好きじゃないんですよ。中小企業の親父と思ってやってます。

青山:例えば?

小倉:普通にやろうぜって話ですけどね(笑)。組織作りも、最先端の手法を取り入れてって話じゃなくて。実直にやるのがいいんじゃないかと。

窪之内:流れに任せているところはあるよね。飲食と物販の話も、きっちり流れに乗っているというか。

小倉:あんまり手法を先行させないというか、かっこいい組織を作るとか新しいビジネスモデルを作るっていうよりかは、環境大善も発酵デパートメントも、存在しているだけで社会に対して意味がある事業だと思うんですよ。逆に言うと、ちゃんと生き延びてさえいればきちんと社会に価値を還元できているから、あんまり体裁的なことに格好つけないで生き抜こうみたいな感じです。

窪之内:ヒラクくんのところは事業の立て付けっていうか、デザインをまったく変えて生き残ってるじゃないですか。実はヒラクくんのところと環境大善のECディレクターって同じ方にやっていただいていて、僕もヒラクくんもその分野に明るくないんだけど、そこはちゃんと委ねてしまえるところがありますよね。

小倉:そうですね。やりきる時は辛かったんですけど、決断する時に悩みはなくて。僕らは緊急事態宣言とかコロナ禍と共にスタートしてるので、旧来のお店のモデルがあんまり通用しないんじゃないかっていうのが当然のこととしてあって、流れに対してしがらみがないというのはすごく良かったし。僕はすごく苦手なんだけど、発酵デパートメントはチームビルディングを大事にしていて、しかるべき人にしかるべき役割でそこがハマったら基本的には自主性に任せるってことをやってるので、チームビルディングって大事だなと。

青山:では、発酵デパートメントの商品はどんな風にチョイスを?

小倉:全国を歩いて、そこで出会って現場を知ってる物がほぼ全部です。加えてなるべくいろんなカテゴリーを網羅するということを考えていて、例えば『みのび』って商品は「たまり醤油」と言って、お味噌の液体部分を使う特殊な醤油ですね。『三河しろたまり』は、小麦しか使わない白い醤油なんです。それから『キッコーゴ五郎兵衛醤油』っていうのが普通の醤油。今言っただけでも3種類あるじゃないですか。普通のスーパーってお醤油がいっぱい置いてあるんですけど、基本的には同じカテゴリーの醤油をいろんな値段とスペックで売ってるんです。それがスーパーの一般的な方法論です。僕らの方法論は、一個一個キャラが違うんですよ。カテゴリーとキャラが違うので被らない。そのかわりめちゃくちゃ安い特売品みたいのもないし、ウルトラ高い高級品もない。ある程度、クラフトで作ってるレギュラーの価格帯で、カテゴリーとキャラと地方が分かれてるっていう。そこはこだわりというか、僕らの存在意義ですね。ここに来たら新しい出会いがあるとか、食文化の多様性を目の当たりにできる。体感してもらうために一番良いのは、やっぱり売り場の作り方なんですよね。僕は一番のメディアは棚そのものだと思っています。

窪之内:棚もそうだし、店員さんもめちゃ詳しい。「こういうことに使うんだったら、この商品が良いですよ」ってことを言える人がいたり。

鎌田:売り方が重要ですよね。どのように商品を伝えるかが重要なのかなと思います。

小倉:お店っていっぱいあるけど、食料品とか雑貨屋さんはだいたい中間の卸しを通してるので、カタログの組み合わせなんですよね。いろんなお店があるようでいて、実は品揃えって何かと何かの組み合わせで、わりとパターンは少ないんです。じゃあどこで差異化するかっていうと、お店の雰囲気だったり商品の伝え方だったりするんですけど、僕らはもう一歩手前に踏み込んでる。つまり中間卸しがぜんぜんないので、直で、作り方とか人柄とかを知った状態で動いてるんで、棚自体がちょっと狂ってるんですよ(笑)。

鎌田:ヒラクさんにお聞きしたいんですけど、ビジョンや理念とかを掲げてやってらっしゃるんでしょうか?

小倉:非常によく考えました。僕はコンセプトって言わないで合言葉って言ってるんですけど、「世界の発酵みんな集まれ!」なんです。

鎌田:ヒラクさんの人柄ともリンクしていいなと思います。

小倉:直球すぎるように見えるけど、深い思索のうえに成り立っていて、一個思ったのが、課題解決型のビジネスをやらないようにしようってことなんです。僕はソーシャルデザイン一期生に近くて、課題はいつか解決されるというのを目の当たりにしてきてるんです。今って集合知が機能しやすい時代なんで、政府とかバグってたりしても民間の力でいろんなものを解決できる世の中になってきた時に、最初に解決を掲げた課題って本当に解決されちゃう。解決されたら俺らどうするのみたいな話になる。発酵って時間軸が長い文化なんですよね。千年以上やってるんで、自分たちの課題解決の時間のタームが短すぎるから、合ってないって思って。だから、掲げるべきは課題解決とか世の中を良くしたいみたいなミッションより「あつまれ どうぶつの森」が良かった。ああいうエンドレスでずっと楽しめるみたいな。ゴールはなくて、集まることが目的化してるんですよね。で、世界中に発酵は無限にあるんで、絶対に集めきれないんですよ。だからエンドレスゲームなんですけど、絶対楽しいんです。
しかもこれは僕の打算ですけど、集めてるうちに必ず、世の中に対して意味があるプロジェクトとか考え方とかがスピンアウトする自信があるんですよね。そこはあえて自分でうたわなくていいと。みんなで頑張って世界の発酵を集め続けていれば世の中も良くなっていくし、みんな楽しいし終わりはないし、事業も長く続くしいいんじゃないかな、みたいな考えのうえに「世界の発酵みんな集まれ!」があるっていう。

青山:私、ボリビアに行った時にじゃがいもを発酵させた練り物みたいなものを食べたんですけどすごくおいしくて、「日本人が発酵の仕方を教えたんだよ」なんて話を聞いたんですよ。そうなると世界中どこに行っても発酵だけで繋がれそうですもんね。

小倉:みんな発酵が大好きだから。発酵で世界征服したいです(笑)。

青山:では残り時間も少なくなってきましたので、一言ずつお願いします。

小倉:日本的なんだけどすごく世界中で通用する、未来ある産業だと思うんですよね、発酵というものが。だって『きえ〜る』とかって、環境を汚しちゃうものが逆に環境浄化するものになっちゃうって話なんで。こういう価値観をまずはプロダクトとサービスとして世の中に問うていくってことだけでも意味があるし、さらに方法論とか原理みたいなものを会社の内側とかブランディングにも向けていくって、日本が伝統的に蓄積してきた強みをモダンな形で生かせる可能性があるものだと信じていて。環境大善の快進撃は始まってますけど、そういうのに並走して一緒にその景色を見られるっていうのは、僕としてもうれしいなって思ってます。

鎌田:全6回の番組の中で、非常に感じたのは「経営って数学じゃない」ということです。やっぱり勘やセンスみたいなものが占める割合がすごく多いなと思っていて、そういった部分で直感力の優れた方々といろんな話ができて楽しかったです。

窪之内:今までゲストに出ていただいた皆さんには本当に感謝で、ヒラクくんには最終回に出てもらって感無量というか…。ヒラクくんはこの一年間経営者としてバリバリやられて、コロナのアップダウンのある中で波を乗り越えてきてるっていう部分が、デザイン経営って部分と非常にマッチするのかなと思って最終回のゲストにお声がけさせてもらったんですよね。
私たちとしてもまだまだ終わるわけじゃなく、伝えること、伝えすぎないこと、そういうことを鎌田さんと抜き差ししながら、発酵や牛の尿や僕たちのやってることを皆さんによりわかりやすい形でどのように伝えていくかっていうのをテーマに、環境大善はさらなる発酵をしていくと思うので、ぜひ見ていていただければなと思います。

ゲスト
発酵デパートメント https://hakko-department.com/
発酵デザイナー
小倉ヒラク
1983年生まれ。早稲田大学で文化人類学を学んだ後、アートディレクターとなるも、発酵に関する仕事を請負ったことをきっかけに、「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」活動を行う“発酵デザイナー”に。初の写真集『発酵する日本』や全国のユニークな発酵食品を扱う『発酵デパートメント』が話題。

解説
KD
クリエイティブコンサルタント
アートディレクター
鎌田順也
1976年生まれ。デザインコンサルティングを行うKD主宰。理念作成からロゴマーク及びCI・VIデザイン、ネーミング、商品開発など多岐にわたって活動している。審査員として2025年大阪・関西万博 ロゴマーク、ロンドン D&AD パッケージ部門に招請。ニューヨークONE SHOW 金賞、JAGDA新人賞など、受賞歴多数。

主催
環境大善株式会社
代表取締役社長
窪之内 誠
1976年生まれ。北海道・北見市にある環境大善株式会社の二代目。父の後継として、2019年の2月1日に事業承継を行った。会社の主な事業内容は、牛の尿を微生物で発酵・培養した『善玉活性水』から作る消臭液「きえーる」や、土壌改良用の「液体たい肥 土いきかえる」などの開発から製造、販売までを手がける。

進行
フリーアナウンサー
北海道観光大使
青山千景
18歳から現在まで、ラジオパーソナリティやテレビのグルメ・観光番組のレポーターとして幅広く活動している。2007年度ミスさっぽろ受賞、2017年には北海道認定 北海道観光大使、2020年に札幌観光大使に就任し、MC業のみならず、大学や企業向けマナー研修講師も年間100本ほど務める。


発行 環境大善
アートディレクション・デザイン 鎌田順也
編集・コピーライティング 佐藤のり子